祖父とカメラの話

先日、公開時からジワジワ気になっていた『ジョーカー』を観た。

観賞中何度か、主演のホアキン・フェニックスを見て祖父に似ているなと思う瞬間があった。


改めて調べてみるとホアキンさんは44歳で祖父より30歳以上若く、Google検索に出てくる画像はそれほど似ていなかった。

目元の窪んだ欧米っぽい顔立ちや、しっかり生えた眉毛(祖父のは真っ白だけど)、痩せた体型など、総合的な雰囲気が似ていたのかもしれない。

ちなみに、祖父の髪型は『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のドクのようで、綺麗な白髪が横方向にフワフワ〜〜っと伸びている。

そこに銀縁の大きな眼鏡を掛けているので、白衣を着たら発明家にでも見えそうである。

 


長年大工として働き、写真が趣味で、焼酎をものすごく薄い水割りで飲むことを好んだ祖父だが、かなり変わった人でもある。


エピソードは数々あるが、1番衝撃だったのは、私が幼稚園に通っていた頃、「孫と娘の自然な姿を撮りたい」という理由でアパートの前で私たちを盗撮していたことだ。

ワゴン車の中からカメラを向けられていることに気づいた母が恐る恐る見ると、それは祖父だったらしい。


家族とはいえ盗撮はどうかと思うが、祖父の「自然な姿を残しておきたい」という気持ちのおかげで、私の幼少期のアルバムにはヘンテコだが妙に味のある写真が残っているので感謝している。

孫たちの喋っている声を録音したカセットテープなんかもたくさんあった。

 


超がつくほどマイペースで、頑固なところのある人ではあるが、私たち孫とよく遊んでくれる人だった。


屋根裏にある祖父の部屋には、撮影した風景写真などが飾られていて、秘密基地のようだった。

そこで、どこからか拾ってきた石に絵を描いたり、木の切れ端でドミノ倒しをしたりして遊んでいると、夕食までの時間があっという間だった。

あの部屋にある日突然現れたトランポリン、私をはじめ孫たち全員がこぞって遊んだけど、たしかわざわざ買ってくれたんだよな。狭い部屋なのに、ずっとあそこに置いておいてくれたんだよな。


私たちはあの屋根裏部屋で遊んでいた頃の子どもに戻らないし、祖父と話すことはもう出来ない。

あまり実感が湧いていなかったけど、こうしてちゃんと文字にすると悲しいってことを思い出してしまう。


今思えば、2人が揃ううちに、と思い、祖父母の写真を撮っておいて良かった。あの後カメラは壊れたものの、フィルムが無事だったのも幸いだった。

正直あんまり上手い写真ではないけど、薄れない思い出が残るのはやっぱり良い。


なんとなく、私はこれからも写真を撮るのが好きなまま生きていくような気がする。なんとなくだけど。